とある製薬会社で部長職に就いている私は、1年前から共稼ぎをしている部下たちのために相談診療を始めました。(※一般人なので医療行為ではありません)

 

きっかけは、共稼ぎ生活をして疲れ切っていた2名の部下から、相談を受けたこと。

 

当時、この2名の部下には、私以外の上司がいましたが、なぜか私のところに、相談を投げてきたのです。これには疑問を持ちました。

でも私は、同じ部門の部下であることから、断ることも出来ずに相談を受けることにしました。

彼らが私に相談を持ちかけてきた理由を聞くと、私の妻が結婚後も看護師を続けており、ベテランの共稼ぎ夫婦だったからのようです。ちなみに子育ても終わり、成人した子供も2人います。それでいて、夫婦仲は良好というのでしょうか。何も問題がない、だから彼らの上司は、適当なことを言って、私に投げてきたようです。

 

この時、彼らの上司は私の部下、正直、忙しい私にこのような話をそのまま投げたことに怒りを感じました。

相談してきた彼らは、その上司から、私の妻が超忙しい救急の看護師をしていることも、話したようで、興味津々で私のオフィスにきたようです。

一瞬、私は彼らの上司を呼び出し、厳しい指導をしようかと思いましたが、相談の内容を聞いた後は、彼らに任せることは出来ないと思いました。

 

話の結果から先に言いますと、現在この2名の部下は、共稼ぎの問題が解決して幸せに暮らしています。

 

『共稼ぎ症候群』専門外来を始めました

『共稼ぎ症候群』初めての問診です。

 

症例1

商品開発部 男性社員 A氏 34歳 妻35歳 正社員 結婚5年 子供2人

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症状:家事をしたくない病 合併症として、家に帰りたくない病

問診結果:奧さんは、2人目の子供の保育園が決まったため復職をしました。それから2人で話し合い、家事を分担することに決めたそうです。しかし、今まで料理をした経験がないA氏は、料理をする度に奧さんから「これ、不味い」を連発されたそうです。それでも、3ヶ月は子供のためだと思い我慢をしていました。

その後A氏は、残業を理由に家事を放棄しはじめました。また、このことが原因で奧さんとのコミュニケーションがなくなり、不仲な夫婦になっています。

さらに、奧さんが煩い母親に似てきたため、怖いそうです。

 

 

症例2

商品開発部 女性 B氏 30歳 夫32歳 公務員 結婚3年 子供1人

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症状:夫を殴ってやりたい病

理由:育児休暇から復職をして4ヶ月が経過しました。B氏は、仕事が出来る優秀な社員です。しかし、ご主人が全く家事を手伝ってくれないそうです。そのため、一日中イライラした気分が続き、後輩社員に厳しく当たってしまいます。

家事を手伝ってくれない夫を、B氏は殴りたいそうです。

 

この問診後、私は草食系男子の弱さを痛感し、優秀な女性の気の強い性格を再確認しました。問診直後、2人に余計なことは言えないと思い、アドバイスはしないで席に戻しました。

ちなみに、このとき2人の相談を丸投げしてきた管理職が私のオフィスに入ってきたので、「バカやろう!」と叫んでしまいました。これは家庭の話ですが、社会人は問題解決が仕事です。安易に放り投げる管理職は許せなかったのです。

 

ともかく『共稼ぎ症候群』専門外来の初日、結局、私は何もできなかったのです。

 

 

看護師の妻に相談

急に始めることになった『共稼ぎ症候群』専門外来、その日、妻にLINEをして相談しました。

「変なことに巻き込まれた、どうしよう!」

妻からは、食事に行こうと返事がきました。

 

 

夜、妻と2人で食事に行き『共稼ぎ症候群』専門外来の2症例について相談をしました。そういえば、この『共稼ぎ症候群』専門外来と名前を付けたのはこの時の妻だった気がします。

 

妻にこの2症例について、「あなたはどうしたいの」と、私は訊かれました。

 

このとき、私は、パニックになりました。医療の専門家である妻だから相談したのに、この答えはないだろう、と。

しかし妻は、1つだけヒントをくれたのです。

 

それは結婚直後、私の趣味である登山に、妻が1回だけ同行したことがあった事についてです。

プロポーズの返事として、妻は”子どもを出産しても看護師の仕事を続けられるように協力すること”を条件にしてきました。言葉の上ではもちろんOKを出して結婚しましたが、妻が計画的に「1人目の子どもを産もう」と決心をしたのは登山のときであったと言われました。

 

私は、まったく知りませんでした。

 

この時、登った山は標高3,000mを超える北岳だったのです。妻は素人であったため、私は危険だからと止めたのです。しかし、妻は、私と知り合ってから初めて泣きながら、子どものように駄々をこねたのです。そのため、危険を承知の上で、北岳を2人で登りました。

妻は、そのとき、感じたことを簡素に話し始めました。

 

夫婦は、他人同士だから分からないことが多い。そのため妻は、出産後このまま看護師を続けるには、どうしても私の協力が必要であると考えたそうです。

妻が試したいことに私が不合格のときは、看護師を辞めることを決心していたそうです。

 

そして、その試験内容は、夫婦チームワークだったそうです。

山は、チームワークが出来ていないと大変なことになります。それも素人が登れないような山では心中になりますからね。妻は、私の愛を確かめたかったようです。

 

余談が長くなりましたが、妻からの『共稼ぎ症候群』治療のヒントは、夫婦のチームワークでありました。これは、夫婦の片方が病気になった時にも、使える言葉ですね。

 

自分が二人と同じ状況のとき

私は、相談してきた二人と同じような時期のことを思い出してみました。

私の夫婦生活は、妻が夜勤や連続勤務のときは、すべての家事を私がしてきました。

そして、私が仕事で忙しいときは、全ての家事を妻がしてきました。それも、どちらか一方が言い出すことはなかったのです。

それから、子供が生まれ、環境が変わりました。それでも、この自然な行動に、変化はなかったのです。

ただ年寄りが悦に浸ってるだけの話ですが、これは教えようがない「相手を思う気持ち」に尽きる気がします。この不確かで普遍的な潤滑剤をどう伝えて良いものか。

 

 

『共稼ぎ症候群』の治療開始

私は、妻のアドバイスをもとに『共稼ぎ症候群』専門外来で、2人の部下に治療を始めました。

ここで私が注意をしたことがあります。それも妻からのアドバイスです。

私が体育会系出身のため、イライラして怒鳴らないようにと忠告されました。妻は、今の若い人はすぐに萎縮するから、絶対に守ることと言われました。

 

症例1 

商品開発部 男性社員A氏34歳 妻35歳 正社員 結婚5年 子供2人

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彼は典型的な草食系男子です。仕事は優秀な方ではなく、商品開発部内でも目立つ存在ではなかったのです。

だから私のオフィスに呼び出すことが出来ませんでした。なぜなら、彼を呼び出すことで性格的に萎縮しそうだったからです。

それに、私が彼だけを特別扱いをしていると、他の社員に勘ぐられることを避けるためでもありました。

昔から、人が僻み始めるとチームワークが崩れるところを、私はたくさん経験してきたからです。

 

そこで私は、彼を昼食に誘うことにしました。当然、私と彼だけです。外来ですから!

これが、食事を始めると、社内とは違いベラベラと喋り出したのです。

そして彼によると、昔から母親の言うことを守るようにと育てられ、家事とは無関係な人生を過ごしてきたと言いました。

それから、彼より妻の年収が高いから、妻に逆らうことが出来なかったとも言われました。

 

個人的には、しっかりしろと彼に言いたかったのですが、私は妻の助言通りググッと我慢をしました。

それから、彼の家事に対する思いについて私はいろいろ質問をしました。その結果、掃除と洗濯はできますと自信をもって彼は言います。

しかし、料理の話しになると「不味い、不味い」と奧さんに言われるに対して、彼は心に深い傷があることを言いました。?

この翌日、私が使っていた簡単な料理方法が書かれた本を、プレゼントしました。

 

(再診)

それから1ヶ月後、私は、プレゼントをした本がどのような成果があったのか、そして、彼の家庭に変化があったか、彼の再診を行いました。

 

再診で、彼は昼食のウナギの蒲焼きに目を向けたまま、「他人は何でこんなに上手に調理が出来るのですか」と囁きました。

私は、彼の良い成果を聞きたかった気持ちに反省をしました。

それから私は、何も言わずに、ウナギの蒲焼きを一緒に食べました。

 

暫くすると、彼は店内を見渡し、他の客がいないことを確認してから、ぽつりぽつりと喋り出したのです。(彼は料理が出来ない自分の事を恥ずかしいと感じている様子でした)

彼は、家事当番の際に苦手な料理をすると慌ててしまい、調味料を間違えたり、魚や肉をこがしたりしたことを告白してくれました。

私は、彼が仕事をするときの段取りの悪さを知っていたので、言葉を圧し殺して聞くことに徹しました。

併発している家に帰りたくない病の病状について、起床時間や帰宅時間を訊ねてみました。?

彼の口からは、会社に行く1時間前に起床、帰宅は、家に帰りたくない病が治っていないので、パチンコに行っていますと答えてくれました。

 

私は、彼の『共稼ぎ症候群』を治療するために、料理本をプレゼントしたことで自己満足していたようです。1ヶ月経っても彼の病は治っていなかったのです。

 

その晩、私は、妻に怒られました。

 

症例1 妻から本当の指導について学ぶ?

私は、教科書通りに、1時間前の起床を30分ぐらい早くすること、パチンコをしないでこと、この2点を指導したと妻に話しました。

妻はそれでは治癒していない、もっとケアーをしないとダメ、私が妻から指導を受けました。

そして妻から、「人を支えるのには、自己免疫を利用しないとね、だから難しいのよ。」と。

この時、妻の看護師としての経験、人を見るスキルは、並の会社員である私の100倍はあるだろうと感じました。

人の命に関わる看護師としてのチームワークとケアー。

いずれも、私のような会社員には無縁の話、でも、もしかすると私たちに足りない部分かもと、私は思いました。

 

その後、私は、彼の自己免疫から出てくる力を待ちました。

そして、妻が教えてくれた『彼を信じること』、これがケアーよと、さらと言われたこと。とにかく、私は、彼自信から出てくる考える力を待ちました。

 

半年後、彼は、私のオフィスに来ました。

彼は太陽のような笑顔で、妻からはじめて美味しいと褒められましたと、報告がありました。

そして彼の起床は、会社へ行く1時間前?2時間前になり、最近、残業はしないで、まっすぐ家に帰るようになりました。と報告を受けたのです。

私は、彼の自己免疫が正常に動き出したことに感動をしました。

この夜、私は感謝の気持ちを込めて妻のために、肉じゃがとビールをテーブルの上に並べて、帰りと待ちました。

 

帰宅した妻は、彼のことを褒めましたが、私のケアーに関しては0点と評価がくだりました。

私が彼のケアーを怠っていたから、彼は半年も我慢したのよ。

 

私は、看護師の指導者である妻に、また怒られました。 さらに後日談ですが、その後、彼の家事への参加が影響して、彼の奧さんは管理職に抜擢されたようです

 

症例2

商品開発部 女性B氏30歳 夫32歳 公務員 結婚3年 子供1人

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産休を明けて、共稼ぎになったが夫が家事を手伝わないでイライラするB氏は、

問診でオフィスに来てから、頻繁に愚痴を言いに来ました。

これが、大変でした。

なぜなら、必ず私がオフィスでくつろいでいるときに、やってくるのです。

これでは、彼女のご主人が、逃げるのも仕方がないと思いました。

私は、このことを妻に相談すると、「聞いてあげなさい」と言われました。

ミイラ取りがミイラになる瞬間を垣間見た気がします。

でも、この日食べた妻のきんぴらごぼうは、世界一でありました。

 

彼女への治療は、とにかく愚痴を聞くことでありました。

彼女の気まぐれで、問診は、週に1?2回になりました。

それに診療時間は、30分から1時間も費やされました。

業務に影響が出る、出ないの瀬戸際まで時間を取るので、会社から通告がきたりしました。

 

この彼女の愚痴の内容は、ご主人が帰ってこない、子供が熱を出しても保育園に行ってくれない。私の治療中、彼女は大事な会議の時に限って子供が熱を出すというのです。

これは、上司として不思議に思いました。

 

妻に、子供はこんなに熱を出すのかと訊ねると、

「最近、子供の様子をしっかり見てないママが多いのよね。熱を出す日は、何か兆候があるはず、自分が産んだ子供だから、もっと大切に育てないとね。」

「共稼ぎ夫婦では、保育園に迷惑をかけないように、子供の検温は、最低1日2回はしてほしいわね。気遣い、気遣い!」

「夜の救急外来に来る共稼ぎの親を持つ子供たちは辛そうなの!」

話をしてみると、B氏が感じる夫の家事不参加・子どもの不調は、根本としてB氏自身の問題であると言う事を、妻は見抜いていました。

なるほど。

妻の助言は的を得ていると確信はありましたが、私はこの内容を彼女に伝えることが、出来なかった。

彼女のプライドが傷つくと、私は思ったからです。

後日、妻から、男は女性に甘いからと、私は怒られました。

 

妻が体験した部下への指導の話

症例2の相談をしている時、妻は看護師として育てた○○さんの事を思い出したそうです。

?今では小児科の師長にもなっている○○さんは、バツ1で看護師をしながら子供を育てているスーパーウーマンです。

シングルマザーになった後、仕事と家庭の両立に苦悩している中、妻は「仕事している間は、あなたの子供より、目の前にいる患者さんのために動いて」と怒ったそうです。

感じ方によっては鬼のような言葉ですが、妻は「シングルなら、父親の役割も子どもに示す必要がある。だから、仕事も子育ても手を抜かないように言ったつもり」との事です。

?症例2 最強の司令塔「妻」が下すB氏への処方箋

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B氏の問診は続いており、ご主人の実家が近くにあるのに、ご主人の両親も孫が熱を出しても迎えに行ってくれないと、愚痴する対象を広げていました。

まだ、女性が結婚後、働くことに対して、反対な親がいることに驚かされます。

 

ただ、この時、私は気づいたのです。

彼女の愚痴は、家事の問題が育児に集中していることになります。

彼女は優秀な部下です。掃除、洗濯、料理について、完璧に出来ていることになります。なぜ育児だけ上手くいかないのでしょうか。

 

彼女に訊ねてみました。

彼女はとにかく合理的な考えの持ち主で、掃除、洗濯は優秀な家電製品たち、そして、食洗機も寝ている間に、仕事に行っている間に大活躍のようです。

彼女が、私の外来を受け、愚痴を吐き出し続けて2ヶ月後のことです。

司令官である妻から、「そろそろ、怒ったら、今が一番、注射の効果がでると思うわよ」と、また軽く言われました。

 

翌日、私は「共稼ぎを解決するのは、あなた自身からだ」と厳しい指導をしました。

 

やはり、彼女は、頭の良い子でありました。それに、彼女はしっかりとした性格だったのです。

私に怒られたことを、ご主人に話したそうです。

それから、彼女のご主人は、休日に掃除と料理を手伝うようになったそうです。

でも、子供のお迎えは、未だに解決できないようです。

この解決は、彼女自身で考えるでしょう。彼女の自己免疫は、強いはずです。

 

おわりに

二人の診療を始めてから、会社に怒られ、看護部長の妻に厳しい指導を受け、中間管理職特有の板挟みを四方から受けている状態でした。長男の大好物のカレーを調理しているとき、タマネギを見るだけで、涙がポロポロと流れた時もあります。

それでも、二人から家族仲が良くなったと、笑顔で報告を貰った時は忘れられない思い出になりました。

そんな後日談を、妻に報告すると、

「私の指導している女性の人数、知ってる?」

…この時、私は、看護師にならなくて良かったと思いました。