夫婦生活の中でもめる原因になりやすい家事の分担は、育った環境や性格・価値観の違いですれ違う事がよくあります。
そんな、夫婦の中で家事分担に悩むEさんに執筆頂きましたのでご紹介致します。
妊娠中「言わなければ分からない夫」の言動に生じた違和感
職場結婚した夫との間に、待望の第一子を授かったのは、結婚して二年目のことでした。
末っ子長男として育った夫は、少し子どもっぽいところはあるものの、優しく大らかな性格で、私たちは、喧嘩と言えるほどの喧嘩はしたことが無い、仲のよい夫婦でした。
関係性が変わったのは、妊娠七ヵ月目のことでした。妊婦健診で切迫早産と診断された私は、自宅安静を言い渡されてしまったのです。
簡単な家事なども極力おこなわず、家で寝ておくようにと指示されてしまった私。その日のうちに夫に報告すると、『仕方ないね』と返ってきました。
その後に続いた言葉は、『俺のご飯は自分でどうにかするから、気にしないでゆっくり寝ていてね』でした。
その時ふと、違和感が生じました。
『いやいや、誰もあなたのご飯の心配なんてしていないし』
『私たちの子どもが、危険な状態なのにごはんの心配なの?』
『あなたのごはんはともかく、私のごはんはどうするの?』
『私、絶対安静って言ったよね?その意味、ちゃんと分かっているの?』
ニコニコしている夫を前に、何から説明すればよいか分からず、私は頭を抱えました。
- 自宅安静中は、トイレとシャワー以外はなるべく動かないよう言われていること
- 夫の食事はもちろん、自分の食事を作ることさえできないこと
- 当然、掃除や洗濯などのその他の家事もできないこと
これらを改めて噛み砕いて説明し、夫の反応を待ちました。
すると夫は、『分かったよ!それで、俺は何をすればいいの?』と、ニコニコ
いやいや、今言ったでしょうよ。
炊事洗濯掃除を、しばらく私はできない。
つまり、それらをあなたにお願いしたいのですよ。
全てを言葉にしないと分からない夫が、今までの夫とは別人に見えました。
夫は言わないと分かってくれない
それでも、根が素直で優しい(と、その頃は思っていた)夫は、説明に根気は要ったものの、最後には私の話を理解してくれ、家事を請け負ってくれました。
夫は、料理は得意ではなかったため、食事はほとんどスーパーのお惣菜でしたが、それでも夫なりに、頑張ってくれているのかなと思っていました。和惣菜を中心に買ってきてほしい旨を伝えると、きちんと実行してくれました。
お風呂掃除も担当すると宣言してくれたため、おなかの張りが辛くて、しゃがむ姿勢をとれなくなってしまっていた私は一安心。優しい夫に、心から感謝しました。
しかし
ある日、ふとトイレに立ったとき、何気なくキッチンに目をやると、汚れたタッパーの山が、シンクに積み上げられているのが目に入りました。水に浸けることさえされず、食べた後の姿そのままに積み上げられているタッパー。
当時は夏場だったため、心なしか異臭が漂っている気がしました。
え、これはいったい何?
捨てていないの?
洗ってもいないの?
水に浸けることさえしていないの?
なんで?どうして?
愕然とした私は、慌ててボウルに水を張り、カピカピになってしまったタッパーの山を洗い、生ごみを処理しました。
帰宅後、夫に問いただしたところ、『もう少しいっぱい溜まってから、洗おうと思っていた!』とのこと。
「いやいや、十分溜まっているし、まず水に浸けておかないと、カピカピになるから二度手間になってしまうし、残飯処理だって、その日のうちにしないと不潔だし、虫がわくこともあるから」
そう説明すると、夫は、『教えてくれてありがとう!』とニコニコ笑っていました。
そして、そのやり取りから数日後
今度は、シャワーを浴びていたとき、お風呂の排水溝から水が逆流してくるという事件が起こりました。
(余談ですが、私はその当時、安静のため、週に二回ほどのシャワーしか浴びていませんでした。)
慌てて排水溝の蓋を開けると、フィルターにびっしりと髪の毛が溜まっていました。
あれ、なんで?
夫は、『お風呂もピカピカに掃除しておいたよ!』と、毎日得意げに報告していたのに…。
夫の帰宅後に確認したところ、夫は、浴槽とフロアを擦って流してはいたものの、排水溝を開けたことは、人生において一度も無いことが判明しました。結婚後から、家事は全て私が行っていたため、夫がここまで家事に関して無知だと、それまで気づかなかったのです。
この人、今までどうやって生きてきたのだろう?
私と出会う前は、一人暮らしだってしていたのに…。
見慣れた夫の顔に、未知の生物と遭遇したような恐怖を感じました。
『言われないと分からないよ!』
『だって知らなかったから!』
というのが、当時から現在まで続く、夫の口癖です。
私は、夫と共同生活を続けなければならない事実に、めまいさえ覚えました。
しかし、妊娠期間中は、それでもまだマシだったのです。
本当の恐怖は、出産後から始まった
そんな紆余曲折の末、長男を出産した私。
一週間の入院を終えて、息子を抱いて帰宅すると、ニコニコ顔の夫から、
『やっと帰って来てくれたね!これまで本当に長かったよ。もう動いて大丈夫だよね?
妊娠中はずっと我慢していたから、今日は飲みに行ってきていいよね?』
と言われました。
………。
えっと、今日?
よりによって、わが子が初めて家にやってきた、今日?
今日じゃないとダメ?
産後の妻を労わる気持ちも無いし、わが子を一緒に育てる気もないの?
と思いましたが、妊娠中、ずっと(とは言え、最後の三ヶ月間だけでしたが)家事を任せていた負い目があったため、何も言えずに許可してしまいました。
そんな風に、納得のいかないスタートを切ってしまった我が家の育児でしたが、始めは思ったより順調でした。順調すぎて、拍子抜けしたほどです。
言わなければ何一つ分からない夫であると念頭に置き、きちんとやり方さえ教えれば、ミルクも作ってくれるし、オムツも替えてくれるし、できる範囲で、指示待ち状態ではありましたが、手伝ってくれました。
しかし、ある日、子どもの夜泣きで寝不足で、昼間は抱っこをねだる子どもの相手で疲れ、夜ご飯を用意できなかった私。
夫に、『今日は疲れているから、夜ご飯は用意できなかった』とメールすると
『え、なんで疲れているの?仕事しないで家にいて、子どもと遊んでいるだけなのに…』
と、返ってきました。
あれ?私、夜泣きがひどくて寝不足だって言ったよね?
最近抱き癖がついてきて、毎日腕がパンパンになるまで抱っこしているって言ったよね?
この人、子育ての大変さも理解できないし、それによる疲れさえ、きちんと説明しなければ分からない人なんだ…!
夫の鈍感さと、他者への共感力の無さに、私は寒気を覚えました。
それでも、私自身が夫の言動に脱力するだけで済んでいたうちは、まだ可愛いものでした。
私が、本気で夫を怖いと思ったのは、息子がつかまり立ちを始めた頃のことでした。
ソファにつかまり立ちをし、よじ登るのが好きだった息子。
いつもは、息子をベビーサークルに入れて、家事を行っていたのですが、その日はたまたま、夫がいてくれたため、ベビーサークルの中には入れず、夫が息子を見ていました。
『ちょっと見ておいてね』と夫に頼み、皿洗いをしていたところ、開始から五分も経たずに、息子はソファから落ちてしまいました。
幸い、息子の容態は大したことなかったのですが、私は夫を責めました。
『どうして見ていてくれなかったの!?』
と詰る私に、夫は神妙な顔をしました。
『ちゃんと見ていたよ!でも、まさか落ちるなんて思わないじゃないか!なんで、落ちるかもしれないって教えてくれなかったの!?』
………。
そんなことさえ、言わなければ分からないのか。
似たようなことは、その後も幾度となく起こりました。
夫は、『ちゃんと言ってくれないと分からない』と繰り返すばかり。
その都度こんこんと説明しても、また同じようなことが起こると、『先に言っていてもらわないと分からない』
今では息子も大きくなり、そう簡単に怪我はしなくなりましたが、いまだに、息子と夫二人きりで過ごすのは、許可できない私がいます。
こんなにも、『何もかも言わないと分かってくれない夫』は、我が家の夫だけでしょうか。