共働き夫婦の家事分担について、こんな話をよく耳にします。
「食洗機を買ったのに、使っていない」
「家事代行を頼みだしたのに、妻の機嫌が悪いまま」
これは何故起こってしまうのでしょうか。
実は、夫婦の家事分担を成功させる鍵は、家電や家事代行を取り入れることでは無いからです。それらの時短テクニックは「打ち手」の1つでしかありません。家事分担の最大のポイントは、「時短テクニックを取り入れる前の準備」にあります。具体的には、夫婦で価値観のすり合わせをし、タスクを可視化し、持っている資産の洗い出してやっと、細かな対策の効果につながります。
ということで今回は、行き当たりばったりな役割分担をして何故かストレスが減らない日々を送らないように、その重要な準備についてお伝えしていきます。
目次
共働き夫婦の家事分担!みんなどう感じているの?
まずは、実際の「家事分担の満足感の夫婦格差」について数字で確認をしましょう。
『博報堂生活総合研究所 「家族30年変化」調査(https://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2018/06/20180702.pdf)』によると、夫婦間で以下の認識の違いが判ります。
Q.家庭における日常生活の役割分担について、 あなたは現在どの程度満足していますか
A.妻 満足68.3%
夫 満足80.2%
→これは、妻は夫と比べて家事の役割分担に満足していない、と解釈できます。
この数値は、納得感のある方も多くいるのではないでしょうか。SNSを少しのぞくと「旦那にもっと家事をしてほしい」「自分は可能な限り家事をしているつもりなのに妻が怒っている」なんて声があふれています。反対に捉えると、夫婦間の家事の役割分担は、夫婦円満の要ともいえるでしょう。
家族のカタチごとに課題が違う!夫婦間で起こっている家事分担の認識のズレとは?
では、どうすれば夫婦の家事育児の役割分担を円滑におこなえるのか?まず最初に、家族構成ごとに役割分担に関する課題をご紹介します。
「家族構成なんて関係あるの?」「家事育児の負担を軽減するためには分担を決めればいいんじゃないの?」と感じる方も多いと思いますが、実は、家事育児の分担を考えるにあたっては、家族構成に目を向ける必要が大ありなんです。
なぜかというと、家事育児に関する家族の課題は家族構成ごとに違うからです。具体的には、子どもの数や、関わる他人の有無などで違ってきます。この家族構成ごとの違いに目を向けることが、家事育児の課題解決の第一歩となります。
今回は代表的な3パターンの家族の例をあげ、それぞれの課題を書いてみます。
夫婦+子どもひとりの家庭
「家事」と「育児」の区別が出来ていない
まず、子どもが産まれた家庭がはじめて当たる壁が、「家事」と「育児」の区別。DINKS時代は「仕事」と「家事」という区別しかない為、「家の中で起こることは全て家事」だと夫婦そろって認識している場合が多いです。その為、夫婦の認識でよくあるのが「仕事は旦那」「家事は妻」という区別。妻側は育児休暇時代の分担を引きずる事もあり、このような役割分担になりがちです。しかし、実際は「家の中で起こること」の中に「育児」が追加されています。
新生児の頃は、延々と続く授乳にオムツ替え、子どもが成長すると、後追いや離乳食作り、遊びの相手など、育児の内容は幅広くなります。育児の対応量が膨大で家事をする時間がなくなってはじめて、「家の中で起こること」の肥大化に気がつくんです。もちろん先に気づくのは、当事者である妻。育児をほぼ任せているような旦那には育児の対応量の多さはわからないし、加えて、育児は家事とシームレスに繋がりすぎて気がつきにくい。例えば、離乳食というと育児の項目ですが、実際にしているは食材調達と調理と掃除。行為自体は家事と同じなので、そこにかかる時間の長さは可視化されにくいんです。この認識の差が、夫婦の分担感覚のズレに直結します。まさに、「自分ばかりやってると感じる妻」と「何が忙しいのかわからない旦那」です。
点でタスクを見る男と線でタスクを感じる女
さらに厄介なのは「育児の認定範囲」の違い。前章で挙げた「家事」と「育児」の線引きが出来た夫婦が次に当たる壁がこちら。2019年に有名になった「名もなき家事」ならぬ「名もなき育児」を妻は感じているんです。
具体例を挙げてみます。妻にとっての育児は、食事、オムツ替え、といった開始と終了が明確なものだけではありません。「危険管理」と「寄り添い」、「知育的動機づけ」も含まれます。走り回る子どもが転んで大事に至らないように、何か誤飲をしないように、どこかで指を挟まないように、側で危険を管理する。後追い期の子どもは一歩でも離れると大泣きするのでピタッと寄り添って一緒に居る、遊びとして本を読んであげたり、テレビだって話しかけながら一緒に見ます。子どもが大きくなってきたら、話を聞くことだって育児のひとつです。旦那側から見ると子どもの隣にただ座っいるだけにみえる時だって、妻はそれを「育児中」とみなし、決して自分の自由な時間ととらえていません。
この認識の差は、時に夫婦の仲を険悪にします。例えば、「お互いに休憩時間だ」と思っている旦那に対して、「旦那だけ休憩してズルいと感じる妻」という構図を生み出します。
夫婦+子どもふたり以上の家庭
上の子の「教育」と下の子「保育」がごっちゃになった環境
次は、子どもが複数いる家庭に起こりがちな認識の差異です。子育てにも慣れてきたと感じている夫婦だからこそ、起こりがちなこともあります。ひとつ目は、上の子の「教育」と下の子「保育」が混在しているケースです。
例えば、上の子が4歳で下の子が1歳の場合。上の子は食事も着替えも自分で出来ます。そのぶん、空いた時間は遊びや学びに費やすことが出来ます。もちろん、遊びや学びはある程度ひとりで出来ますが、誰かと一緒に工作をしたり、お菓子を作ったり、ごっこ遊びをしたりと他人との関わりがもたらす脳への刺激は多くあります。そういった意味で、上の子もまだまだ放ってはおけません。下の子は言わずもがな、前述の「線の視線」で誰かがずっとそばにいなければなりません。結果として、上の子の「教育」の担当者と下の子の「育児」の担当者の2名が必要になります。夫婦としては、上の子が大きくなっているので育児は下の子だけでいいと認識している場合が多く、意外にこの状態にストレスを感じたりします。
上の子の事例をもとに設計しすぎて個体差に撃沈する
また、第2子がいる家庭は、2人目だということで逆に混乱してしまうケースもあります。それは、子どもの個体差を考慮せず設計してしまう場合。いくら同じ親から産まれたとはいえ、イヤイヤ期の時期も、オムツ外れの時期も違っていて普通です。夜間授乳や夜泣きの有無は生活スタイルに大きく影響します。
「上の子の時は、この食材はこう調理すると食べた。」「上の子の時は、これをすれば1人で遊んでくれていた。」など、上の子のケースに引っ張られ、それをもとに家族の行動を設計する家庭も多くあります。でも実際は上の子の時と同じように進む場合の方が珍しいのです。特に、費やすべき時間を上の子の実績ベースに設計しすぎていると、夫婦間で暗黙の了解のあてが外れてしまい、その時々のリカバリーで揉めるというようなこともあります。
夫婦+子ども+その他親族
人手が増える人間関係のストレスも増える
次は、少し例外の家族の形です。核家族化が進んでいますが、子育ての大変さが叫ばれる昨今では、祖父母との同居や、祖父母宅の近くに住むなど、夫婦とその他のの大人(基本的には親族)が一緒に子育てをすることも増えてきました。一見、良い傾向に見えますが、このケースも要注意。なぜならば、人が増えると言う事は人間関係のストレスも増えると言う事だから。この場合に夫婦が苦労をすることは、「子育てに対する夫婦間の決め事や独自のルールをどの範囲まで展開するかを決めなくてはいけない」と言うこと。例えば、「まだ子供に食べさせてないお菓子の種類と与えるタイミングを伝える」とか、「外から帰って手洗い・うがいをしないと○○はさせない」など、生活習慣に関するルールです。夫婦2人という関係性なら、忌憚なく意見を言い合いすり合わせることができる細かい内容を、サポート役の第三者まで求め、浸透させていくパワーは大きいものです。特に、浸透させていくという、センシティブな場面も現れる大変な行為を夫妻どちらかのみが担ってしまうという良くない例はいたるところで耳にします。
認識がズレてしまう理由
では、今まで見てきたような認識のズレがなぜ起こるのか、その理由を考えてみましょう。
理由①環境の変化を明確に認識していない
まず1つ目の理由は、家族の環境の変化を明確に認識していないこと。もちろん、子供が産まれた、第二子が生まれた、子育てが大変になってきたので義母が手伝ってくれるようになった、などといった家族の環境変化をぼんやりとは認識できていると思います。しかし、その環境変化から来る影響について明確にしていない夫婦がとても多いです。夫婦間でその変化からくる影響を明確にしていないと、最初にその変化の影響に気がつくのは当事者(大変な思いをしている側)のみ。気づいた頃にはすでに「どうして私ばっかり」と一方が不満に思っている状態が出来上がってしまいます。
理由②圧倒的に夫婦の会話量が足りていない
そして、前述した、「理由①環境の変化を明確にしていない」につながるのが夫婦の会話量の低下。仕事が忙しい、家事が忙しい、育児に時間がかかる、といったような環境に陥ると、物質的に真っ先に削減対象になるのは夫婦の会話です。「子供がいると夫婦の会話の時間が減るのは仕方ない」とよく耳にしますが、実は、会話が減ることは大問題!夫婦の会話がないという事は、情報の共有が出来ないという事です。あらゆる課題解決の手法がとれなくなってしまいます。
理由③必要な準備をせずに時短テクニックに着手してしまう
さらに、認識のズレをこじらせてしまう最後の一手が「時短テクニック」です。「えっ!時短テクニックって効果的な対策じゃないの?!」と思いますよね。もちろん、家事育児の時短テクニックは、有料・無料のものが様々世の中にあふれており、夫婦で賢く実装することによって共働き家庭をサポートしてくれる強い味方です!しかし、必要な準備をしないまま時短テクニックに着手してしまうのは黄色信号です。対策をとっているつもりが負担感の解消につながらず、夫と妻が正面衝突なんてことも。
次の章からは、共働き夫婦が時短テクニックに取り組む前に絶対に準備するべき内容についてお話しします。
共働きの夫婦が時短テクニックに取り組む前に準備すべきこと
準備①夫婦の家事育児の価値観を共有
「こうありたい」なりたい姿を話し合う
子育てをする夫婦が、家事育児の負担感の解消に向けてまず最初にするべき事は、「なりたい姿を話し合うこと」です。働いている方なら想像できると思いますが、基本的にはビジネスと同様。チームで何かに取り組むときは、まず第一にビジョンの設定です。「こんな家族になりたいね」と言うことを話し合いましょう。ここで出てくるワードは抽象的なもので構いません。例えば、「家族で楽しい会話が活発に出来る状態」といったよう内容で大丈夫です。
「なぜ、こんな事をするのが家事育児の分担につながるの?」と感じるかもしれませんが、実はとっても大切です。なぜならば、夫婦でこれから挑もうとしている問題は簡単な課題では無いから。いくら仲の良い夫婦でも、忙しい毎日の中でイライラしたりギスギスしたりするような日があることと思います。そんな時に、「自分たちは何のために毎日働くのか、どうなっていきたいのか」と言う指針、つまり、何かあったときに戻る「心のよりどころ」と言うものが必要です。そのためにもここはよく話し合いましょう。
なりたい姿と現状の距離を確認する
ビジョンの共有をした後は、そのなりたい姿に対する現状との距離を確認していきましょう。目指すべき状態に向かっているのか、向かっていないのはなぜなのか、という視点を持ちながら話し合います。
試しに先ほどの「家族の会話が活発な状態」を例にとってみます。この場合は、なりたい姿との距離を確認するために、まずは今どのくらいの会話量があるのかを振り返ります。そして、目指す姿になるためには「会話が活発に出来る時間が少ないね」「共通の話題をもっと増やしたいね」というようなイメージで、理想の姿に向かうために何が足りていないかを言葉にします。そうすることで、この後の準備をしていく際の判断の加減材料ができます。なりたい姿にあと少しで届きそうな場合は、おもいきった判断は必要ありません。反対に、なりたい姿と現状が大きく離れている場合は大胆な判断を必要とする場合もあるでしょう。そのように、大きく舵をきる時は、ここで確認する内容が背中を押してくれることでしょう。
準備②タスクの可視化&優先順位の認識あわせ
タスクの可視化
ここまできてやっと、具体的な対策へと手順を進めることができます。次は「タスクの可視化」です。思いつく家事育児のタスクを全て洗い出しましょう。
【タスクの可視化の手順】
1、個人作業
ポストイット等を使って頭に浮かぶものを全て書き出す
2、共同作業
書き出したものをノートや画用紙に貼り、共有しあう
「育児」「家事」といったような大項目に分ける私が気がしやすくてオススメです。
※特に妻側は、前章であげた「線の育児」についても明確に書く言葉を忘れないようにしましょう。
ここで丁寧に洗い出すことで、この先の工程を円滑に進めることができます。全て洗い出せているのか不安になった時は、1日の行動を行う毎にメモをしていくといいでしょう。スマホのボイスメモ機能を使い、自分の行動を全てメモしていくとその項目の多さに驚くことと思います。
優先順位の認識をあわせる
タスクの洗い出し可視化を行ったら、次はそれぞれのタスクに対する「夫婦間の優先順位の認識」を合わせましょう。声に出して考えを伝え合うことが大切です。物事の優先度は自分にとっては当たり前の事なのであえて口にしない人は多いですが、意外に相手は違う場合が多いです。「仕事相手ならまだしも、付き合いの長い配偶者であれば自分と価値観は同じはず。」といったように勝手に決めつけてる事は禁物!今まで深く話し合ってきた相手であっても、子育てと言うお互いに初めてのミッションが加わった場合の優先度は1から組み立て直されているもの。ここでのポイントは、優先度と合わせて「自分がストレスに感じること=やりたくないもの」を話し合うと良いでしょう。そのように話を進めると、時短テクニックや他者を巻き込む施策のとり方まで話を進めることができます。
【優先度の話の例】
妻:「食後の洗い物より子供の風呂が優先」
旦那:「洗い物は苦手。洗い物が残っている状態を見るとストレスを感じる。」
→食洗機を購入、もしくは旦那が子を風呂に入れる。
妻:「いやいや期の子供に1日中付き添うことが最もストレス」
旦那: 「料理は好きだが、後片付けのルールを覚える事が苦手」
→旦那が子供を見ている間に妻が集中して料理の後片付け
妻:「夕食を作る時間があれば子の宿題をみるのに費やしたい」
旦那:「平日は夕食をつくる時間がない」
→家事代行を検討
このように、夫婦が互いに各タスクをどう捉えているのかを丁寧に話し合うことが重要です。
準備③持っている資産を整理する
最後に、自分たちの持っている資産を整理します。今まで決めた優先順位に対してその資産をどう分配していくのかを決めていきましょう。これまでの話し合いの中で、互いの得意分野やストレス対象物は開示しています。それを受け、出来る限り「お互いのストレスがなくなるように」という方針で資産分配していくのがポイントです。
主な資産の種類として、以下の3つをおさえておきましょう。
・お金
収入の何%と言う考え方が良いでしょう。
・時間
帰宅後に家事育児に当てられる時間を開示しあいましょう。
・周りの援助
近くに住んでいる親族や有償スタッフといった借りられる手の数を確認しましょう。
あとは、夫婦それぞれで時短テクニックをカスタマイズ!ロボット掃除機や食洗機を買うのもよし、有償サービスでスタッフに家事育児をしてもらうのもよし!互いの価値観を開示した後に家族の資産の分配していくので、とる選択のに共通の納得感がうまれます。自分の苦手に対してお金を使い、ストレスを無くしていくように設計すれば、相手に対して自然と感謝の気持ちをもつようになり、夫婦の絆がより一層強くなることでしょう。
▼まとめ 共働きの夫婦が家事育児を円滑に進めていくために
ひとことに家事育児の役割分担といっても、家族の形ごとに課題は違います。世の中にはスキルハックやテクニックといった情報があふれているので、困ったときにそれらは救いを示唆してくれることもあるでしょう。しかし、大前提となる夫婦間の目線合わせを徹底的に行うことができていないと、せっかく対策をセレクトしたのに上手くいかず、費用が水の泡になってしまいます。
「食洗機を買ったのに、使っていない」
「家事代行を頼みだしたのに、妻の機嫌が悪いまま」
なんてことにならないように、まずは夫婦で価値観のすり合わせや持っている資産の洗い出し、タスクの可視化といった準備をしてからスタートしましょう!